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第二章・実は仲が良い。(3)
彼の目覚めはいつも不快だ。ようやく過去の呪縛から現実へと戻ったライオネルは、意識を柩の外へと向けた。
「――」
何やら上階が騒がしい。
柩のふたを開けて身体を起こす。
相も変わらず薄暗い視界と鼻を突くかび臭い匂いはもう慣れた。すっかり見知った光景は、しかしどうもおかしい。それに気が付いたのは、彼を惑わす甘い匂いが脳内にじんわりと侵入してきたのを感じたからだ。
この甘く惑的する匂いは以前にも嗅いだことがある。そしてこれがもたらす効果による結果もまた、ライオネルは知っていた。
ライオネルは十分に警戒しながらも自らが世界と切り離した空間を出る。地上へと繋がる階段を上ればやがて燭台に灯った眩い炎が徐々に増えていく……。
上りきったその先にあるハッチを開け、顔を出せばそこはすぐにダイニングキッチンだ。床には幾何学模様が描かれたダークブルーのカーペットが敷いている。
二本の燭台が乗っている長いテーブルを挟み、椅子に座っているふたつの人影を見たライオネルは眉を潜めた。ふたつの影のうちひとつは赤毛の少女、シンクレアだ。そしてもうひとり――。
「何故、まだお前がいる」
「危ういところを助けてもろたんや。我ながら迂闊 やった」
この屋敷にいること自体、あまりにも不適切な人物に視線を向けながら尋ねるライオネルの問いに答えたのはシンクレアだった。彼女は何やら気分が乗らないようだ。そばかすが散らばっている頬をぷっくりと膨らませ、普段の明るい表情とは打って変わって考え込んでいる様子だった。胸の前で腕を組んで唸っている。
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