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第二章・Grigori (1)
(四)
季節は哀愁漂う秋から冬へ移り変わり始めている。街は徐々に華やぎ、建造物やもみの木は色とりどりのイルミネーションで彩られる。その中を腕を組んだカップル達が楽しげに行き来していた。
その中で、ライオネルは人々の活力を求めて歩いていた。人々の視線がこちらに釘付けだ。それもその筈、屋敷を出たライオネルの傍らには淫魔もいるのだから。
淫魔は何もしなくともそこに存在する、ただそれだけで惑的する力がある。
そしてライオネル自身もまた、長身で引き締まった肉体を持っていて、ハンサムだということは理解している。それに加えて淫魔もいるおかげで視線を集められるのはいい兆候だ。こちら側から意識的に活力を奪うまでもなく、簡単に吸い上げることが可能になるのだから。
淫魔の魅惑はライオネルにとって邪魔にもなるが、時としてそれを有効に扱える。要はライオネルの自我が保てることさえできれば、彼の力に屈することはないのだから。
――とはいえ、淫魔の魅惑術は恐ろしく、気を抜けばたちまち堕ちてしまう。そしてライオネルは彼の誘惑から背を向けたあの日から、拷問の日々を送っている事も事実だった。
――相手がたとえ異性であっても同性であっても、ライオネルの容姿に惹かれ、彼らは常に言い寄って来る。たしかに、人間だった頃もライオネルは殆どと言っていいほど自ら進んで情交を結ぶことはなかった。
無論、性行為自体に全く興味がないというわけではない。ただ単純に、彼にとって惹かれる相手がいなかったからだ。
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