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第二章・Grigori (3)

 たしか彼は殺意を抱くほどに自分を毛嫌いしている筈だ。それが何故、自分と並び歩いているのか。  シンクレアは淫魔が助けてくれたとそう言っていたが、グリゴリ教団か、教団内部にいるベルゼブルかのどちらかが――あるいはその両方と、毛嫌いする自分以上に彼にとって都合の悪い何かがあるのだろうか。  ――いや、疑問はまだある。彼は以前のように魅惑術を放出する様子もない。それは彼にとって十分な食事ができたからだと言えるだろう。  そのはいったい誰が与えたのか。  それを考えた時、ライオネルの胸に小さな(わだかま)りを感じた。――いや、今はこれについて考えるのはよそう。自分はけっして淫魔に支配されてはならない。  ライオネルは両の手に拳を作り、首を横に振る。彼は努めて視床下部を刺激する甘い香りを遮断するよう心がけた。 「何故お前も来る必要がある」  思考がおかしな方へ行くのを防ぐため、ライオネルは沈黙を破った。 「ぼくだって紛い物なんかと同じ空気を吸いたくはない。ただこちら側としても色々都合があるんだ」  彼はふんっと鼻を鳴らし、そっぽを向く。  やはり彼と例の教団とに何らかの因縁があるのだろうか。疑問もそこそこに、ライオネルは行き交う人々の活力をそれぞれ少しずつ吸い上げていく……。 「お前にも都合が良かったのだとは思うが――とにかく助かった」  ライオネルは静かに口を開いた。

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