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第二章・Grigori (4)

「えっ?」  突然のライオネルの話す内容はあまりにも彼にとって不意だったらしい。赤い目(ルビー・アイ)を大きく開けて瞬きを繰り返す。その仕草はなんら人間と変わりないのだと、ライオネルは思った。 「シンクレアを助けてくれたんだって? 恩にきる」  ライオネルにとって、シンクレアはただの同業者だが、それでも知っている者をみすみす見殺しにしてしまえば胸は痛む。あの軽快で辛辣な物言いをする彼女は今やライオネルの生活の一分になりつつあるのだ。彼女を失わなくて良かったと心の底からそう思う。 「勘違いするな。別に神の使い魔なんてぼくにはどうでもよかったんだ。ただそこにいたから奪った。それだけだ。――今だってお前を殺したくて仕方がないんだ」  彼は声を荒げた。  ――それはつまり、ライオネル以上に殺意を持つ相手がいるということだろうか。  肩を引き上げ怒りを露わにする淫魔に対し、ライオネルが冷静に分析していると、彼は我に返ったらしい。深呼吸して自分が怒りに身を委ねることを止めた。 「――お前、このぼくにいったい何をした」  淫魔は憎々しげに唇を噛み、ライオネルを睨み上げる。真紅の目には憎悪と殺意が宿っていた。 「どういう意味だ」 「(とぼ)けるな! ぼくはあれ以来、どんな食事をしても美味いと思わなくなった。お前が何かしたんだろう!」  尋ねたライオネルの問いに彼が一瞬の隙もなく答えた話の内容は、けれどもライオネルを驚かせるものでしかなかった。

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