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第二章・Grigori (6)
悪魔がこちらに向かって来ていることに、どうやら淫魔も気が付いているようだ。彼は口元を歪め、笑う。
「…………」
――ともかく、この場にはたくさんの人々がいる。被害は最小限に留めねばならない。
ここから離れることが何よりも先決だ。
ライオネルは足早に人込みを縫って歩き、閑散とした裏路地へ抜ける。すると間もなくして両脇から幾数もの人の形をした『それ』が姿を現した。
身長は子供くらいの高さで、一三〇センチほどしかない。皮膚は焼け爛 れたように垂れ下がり、頭部には山羊のような漆黒の角が二本と背には蝙蝠のような羽根が生えている。二本の手はカマキリのような鋭い爪になっていた。
彼らは人間の感情 に取り憑き、入れ知恵することで負の感情を吸い取る。姑息で脆弱な悪魔だ。よって魔力も微量しか持っておらず、ライオネルの敵ではない。
本来ならば――。
しかしこの場にいる悪魔らは違う。彼らは山羊のような漆黒の角と蝙蝠の羽根に加え、眼球のないふたつの目は赤く充血し、口元にはヴァンパイアを思わせる鋭い犬歯が覗く。荒い呼吸を繰り返すその口は閉ざすことができず、唾液が滴り落ちている。
活力吸血鬼 のライオネルが彼らから感じ取れるのは多大な恐怖とストレス。
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