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第二章・Grigori (7)

 充血した目、閉ざすことができないほどの荒々しい呼吸。口から延々と滴り落ち続ける唾液。これは明らかに興奮状態に陥っている。  彼らの体内からアドレナリンが増幅しているのが感じ取れる。恐ろしいほどの魔力の昂ぶりは、姑息で脆弱な悪魔と言われる種類とはかけ離れた存在だ。  この症状は以前にも見たことがある。パーシング・サーペントに酷似した悪魔もまた、このように自我状態を保てずにいたのではないか。  ともすると、これらもまた、淫魔の誘惑術が効かない筈だ。 「――――」  やはり怪しいのはとかいうあの教団だ。  そういえば、祭服の男は悪魔に何かの薬剤を投与していなかっただろうか。  あの投与薬はもしかすると、悪魔の理性を奪う効果があるのではないか。ノルアドレナリンを急激に増加させ、飢餓状態を生み出せるのかもしれない。  淫魔の魅惑術が相手に効かないのはそれが原因なのかもしれない。  そもそも魅惑術は、脳の内部にある、性欲や行動などを支配する視床下部を刺激する。しかしノルアドレナリンを増幅されている彼らは一種の興奮状態に陥っている。これではいかに淫魔が視床下部を刺激しようとも無駄に終わる。  しかも困ったことに、興奮状態に陥った悪魔は通常よりもずっと凶暴化する。  だからだろう。同族の悪魔である淫魔を無差別に攻撃したのも頷ける。  さて、グリゴリ教団はいったい何のためにこのような投薬を作っているのか。  果たして黒幕はいったい何者なのか。

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