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第三章・三人の王子を殺害した犯人。(2)

「何故、悪魔のお前が人間界の教会(ここ)にいる。まさかお前が熱心な神の信仰者だとは思わなかったよ」  悪魔と神は相反する存在だ。当然、神を信仰する筈もない。アマデウスは片方の口の端を吊り上げ、馬鹿げていると皮肉に笑った。 「君の兄上達が殺されたかも知れないという事実を父君から教えていただいてね。仇を討ってやろうとここへ来たんだよ」  ベルゼブルはアマデウスの皮肉を冷静に受け流した。冷静さを欠いたのはアマデウスの方だ。 「嘘だ!」  アマデウスは声を張り上げ、直ぐさま否定した。  アマデウスの問いに、ベルゼブルはにやりと笑みを浮かべている。彼自身の雰囲気そのものもそうだが、口調からしても、まるでナメクジでも這うようなねっとりとしたものだった。しかしそれ以上にアマデウスが彼を不気味だと感じたのは彼が話した内容だ。  なにせ兄達が殺されたかもしれないという疑惑は悪魔界の機密事項に価する。アマデウスにとって、ルジャウダとニヴィアは両親である前に国を治める王と王妃である。絶対的存在の彼らに反逆者がいるかもしれないことを民に知られてはならない。  三人の兄が殺されたと知られれば、たちまち王の威厳は消え去る。そうなれば、日頃から王をよく思わない一派はこれ幸いにと名を上げ、反乱を起こしてしまう。アマデウスはそれを懸念してひとり孤独に人間界へ降り立ったのだ。それをいくら従兄弟であるとはいえ、王自らがベルゼブルにみすみす自分の内情を明かすことなどあろう筈がない。

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