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第三章・三人の王子を殺害した犯人。(3)

「何故そう言い切れる?」  アマデウスが強く否定しても彼は顔色ひとつ変えず、いまだ口元に笑みを浮かべるばかりだ。それがまた、いっそうの不気味さを感じさせる。 「父上自ら均衡が崩れるようなことを簡単に口にするわけがない! お前が兄上達を殺したんじゃないのか!」  悪魔界が乱れるということはすなわち、天界や人間界との均衡も崩れることになる。それは神々や悪魔神にとっても避けねばならない重要なものだ。兄達が殺されたかもしれない事実を知っているのは、家族と兄の命を奪った当事者のみだ。アマデウスは両の手に拳を作り、怒鳴りたい気分を押し殺し、静かに告げた。 「――やはり、一筋縄ではいかない、か」  静かな空間に響くベルゼブルの声はなんとも冷ややかで高圧的なざらついた低音だった。 「そうだ。おれがここへやって来たのは君が想像しているとおり。この地を手に入れるためだ。そしてアマデウス。君を我がものにする為。――君のお父上に代わってこのおれが次期悪魔王となる」  ――なんということだろう。自分が思っている以上に、ベルゼブルは恐ろしい野心を隠し持っていたのだ。  まさかとは思ってはいたものの、本人の口からあっさり認められたアマデウスは呆然と立ち竦む。  アマデウスは、泥濘(ぬかるみ)に足を取られたような気分だった。視界が大きく揺れる。 「……お前のこの一件、叔父様や叔母様は――

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