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第四章・帰還。(1)
(一)
人間界とは違い、ここには太陽がない。
――にも関わらず明るいのは天界の光が差し込んでいるからだ。
耳を澄ませばどこからか聞こえてくる鳥達のさえずりや、引いては寄せる波の音。湿った空気を含んだ風が肌に触れる。目の前に広がるのは雲さえも溶けてしまいそうな澄んだ青空。そしてその空と境界線が判別出来ないほど大きな海だ。
潮の香りが鼻孔をくすぐる。
大きく息を吸って深呼吸してみると、肺から全身へと清涼感が広がっていく。
――悪魔界は相変わらず美しい。
自分はどこにいても変わらず日常を送っていたように思っていたが、こうして悠然とした大地と空の中にいると緊張が解れていくのが判った。
アマデウスは海がある反対側に視線を向ける。
二つの大きな河が合流したところ。岩山に囲まれた立派な城がそびえ立つ。
その城こそが父、ルジャウダ王が主の悪魔城である。
我が家が目と鼻の先にあると思えば、アマデウスの唇が自然と緩む。
「そんな表情もするのか」
アマデウスの緩む表情を見ていた彼は、静かにそう口にした。
アマデウスは今まで家族以外にけっして気を許したことがなかった。
背筋は常に伸ばし、表情も緩めない。それなのに今はどうだろう。一番気を許してはいけない相手の前で笑みを浮かべてしまった。
これは由々しきことだ。
アマデウスはしまったと緩んだ口元を再び結び直す。
あたかも自分一人のように立ち振る舞うことを決めると無言のまま、足早に進んだ。
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