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第四章・帰還。(2)

 息が上がってしまうのはいつもより少しばかり速いペースで進んでいるからだ。  ――それなのに、相手はどうだろう。ちらりと隣を見ると、彼はアマデウスの歩幅に合わせ、優雅に歩いているから忌々しいことこのうえない。 「――――」  ――気に入らない。自分よりも長い足で優雅に歩くその姿も――。  普段なら黒ばかりを身に着けているのに、今ばかりは白のチュニックに身を包み、まるで天使のようなその姿も――。  服の上からだって判る引き締まった肉体美と逞しい腕も――。  そして垂れ流しだった腰まである漆黒の髪は後ろでにひとつに結われていて、おかげで見えるのは引き締まったヒップだ。黒のスキニーパンツがぴったりと纏わり付いているその姿――。  彼の何もかもがアマデウスを魅了してくるから気に入らない。  対する自分は――といえば、深いスリットが施された太腿まである少し長めの薄水色のチュニックに白のスキニーパンツ。どんなに鍛えても筋肉が付かない貧弱な細い身体。少し前を歩く彼との自分の体格差があまりにも違う。  前を行く魅力的なその男性を、指を咥えて見ている自分自身が腹立たしい。  ――間もなくして鬱蒼(うっそう)と生い茂った木々の中で、絹のように細く長い(たてがみ)と美しい毛波をした漆黒の馬と純白の馬、一際目立つ二頭の姿が見えた。  二頭の馬はまるでアマデウス達を待ち構えていたかのように、地に生えた草を食んでいる。

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