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第三章・欲望と理性の狭間で。(1)
(三)
淫魔 の香りは恐ろしく強力だ。こうして街中に繰り出し、目を閉ざしているだけでも惑的する甘い香りが漂ってくる。
たしか三日前に彼と別れたのはここから数キロ離れた裏路地だ。ライオネルはヴァンパイア特有の優れた五感を以 て下弦の月が浮かび上がる闇の中を独り彷徨い歩く。すると間もなくして、鼻を突く深いな匂いが立ち込め始めた。それとほぼ同時――三日前にも目にしたことのある形態の低級悪魔が数体が姿を現した。
数はざっと一〇匹程度。ライオネルの敵ではない。
――どうやら相手はこの街中では流石に巨大で強力な悪魔を生み出すつもりはないらしい。教会が絡んでいるのならそれもそうだろう。なにせ彼らは人間に崇拝される立場にいなければならない。あからさまに人間を傷つけ、被害を大きくしすぎるのは何かと都合が悪い。
ライオネル目掛けて鋭い鎌を凪ぐ。常人なら素早い攻撃はしかしライオネルには止まって見える。宙を舞い、懐から銀のナイフを数本取り出し投げる。
ナイフは悪魔の額に命中し、断末魔の悲鳴さえも上げることなく霧散した。
残りの悪魔数体が宙にいるライオネルに向かって飛び上がる。ライオネルはその悪魔に向かってブーツに忍ばせていた隠しナイフで蹴り上げる。
鎌を振ることしかできない悪魔は抵抗虚しく消え去った。
――残りは地に佇む二体のみ。
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