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第三章・欲望と理性の狭間で。(2)
ライオネルは怯んでいる悪魔二体の後ろを取り、腰から長剣を引き抜くと横へ凪いだ。
鋭い切っ先は悪魔を真っ二つに引き裂く。意図も容易く悪魔を消滅させた。
やがて邪気は消え、鼻を突き刺すような邪魔な匂いもなくなる。程なくして淫魔の甘い香りが再び漂いはじめた。
――いや、違う。甘い香りはよりいっそう濃くなっている。
匂いに誘われるがまま歩を進めれば、惑的される甘い香りに支配され始め、ライオネルの思考は徐々に霞んでいく。
甘い香りが脳を刺激しているのが判る。下肢は熱を持ち、中心にある雄がスキニーパンツを押し上げる。自分を解放しろと本能が命じる。
それでも今、これに支配されるわけにはいかない。ライオネルは奥歯を噛み締め、抗う。
どうにか淫魔の誘惑を拒絶し、香りのみを純粋に探していると、おかしなことが起こった。ライオネルの脳裏に、アマデウスのすすり泣く姿が過ぎったのだ。
その瞬間、何故か急がなくてはと駆り立てられた。
この感覚はライオネルにとって初めての体験だった。過去に対しても、そして喪失した妹コルベルの身を案じている今でさえもこのような焦燥感は感じていない。
これは淫魔のなせる技なのか。それほど彼が弱っているという証拠なのか。
「――――」
焦燥感に襲われたライオネルの足を進める速度は徐々に増す。
やがて行き着いた先は、森林の中にまるで身を隠すかのようにひっそりと佇んでいる小さな教会だった。
――教会からは真新しい塗装の匂いがする。
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