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第三章・欲望と理性の狭間で。(3)

 白一色に塗られた外壁は周囲の景色と同化しておらず、なんとも奇妙で異質なものだ。――いや、奇妙なのは外観だけではない。禍々しい魔力がこの地全体を覆っている。  そして、依然として漂っているライオネルを狂わせる甘い香り。  この匂いは間違いない。淫魔が放つものだ。  ――ともすれば、彼は餓死寸前で食事ができない環境で捕らわれている可能性がある。  ――いや、そうであるとは限らない。彼は淫魔である以前に悪魔だ。ベルゼブルと結託してこの香りでライオネルを誘き出し、陥れようと画策しているのかもしれない。  良く出来たシンクレアは淫魔に騙されているということも考えられる。 「…………」  しかしこうやって考えているだけでは真実は見えない。  ライオネルは異様ともとれるこの教会の塀を乗り越えて侵入すると、できるだけ気配を消して進む。  するといくらもしないうちに会堂の入口を見つけた。固く閉ざされている扉が行く手を阻む。  魔力がこの地を覆っているものの、人の気配も悪魔の気配さえないこの教会。そして必要以上に閉ざされた扉。ここに何かがあるように思える。  扉の前には鎧を着た青銅(ブロンズ)像が二体、槍と大剣を持ち、向き合って存在していた。  二体の像は重々しい金属音を立てると侵入者のライオネルに向けた。  この像から魔力を感じる。――ということは、何者かが見張り番として置いたのに違いない。しかしこの青銅像を操る悪魔の存在はこの教会からは感じない。遠隔で操っているのだろう。

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