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第三章・欲望と理性の狭間で。(6)
痛みに負ければ瞬時に槍の餌食だ。ライオネルは歯を食いしばり、青銅像の肩口にある核目掛けて突っ込む。
核に命中した切っ先は手応えもなく砕け散った。
がらがらと大きな音を立てて崩れ落ちる像を横に、ライオネルはなんとか体勢を立て直して地に降り立つ。
固く閉ざされた扉に手をかけると、真っ赤な鮮血が滴り落ちる。それだけでも先の戦いの激闘を物語っていた。
閉ざされた扉を開けたそこにはステンドグラスに描かれた天使の絵が月光によって床に写し出されている。
悪魔の根城だとは思えないほど静かで、ごくごくありふれた会堂の中だった。けれども異様な存在がひとつ。両手足を拘束された人影がそこにあった。
――淫魔だ。
ライオネルは彼の周囲に結界が張られているのを確認すると、唇を小さく動かし、結界を破った。同時に、ライオネルを狂わさんとばかりに、今までとは桁違いの強烈な甘い香りが彼を襲った。
ライオネルはそれでもできるだけ呼吸を浅く保ち、淫魔から発せられる香りを嗅ぐまいと理性を保つ。
そうして淫魔に近づいていけば――。
ライオネルは自分の目を疑った。
なんというおぞましい光景だろうか。
彼の両手足は身体のあらゆる部分を暴くように拘束されていたからだ。
ツンと尖り、熟している両胸にある赤い蕾。しなやかに反れた肢体に、無理矢理開かされる下肢。太腿の間にある陰茎は蜜を零し、果てられぬようにと麻の紐で根元を固定されている。
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