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第三章・欲望と理性の狭間で。(8)

 ライオネルは目的のそこを解放するため、手を伸ばす。  そして、止めた。  ――ライオネルは静かに首を振った。  最後の拘束である陰茎の根元を縛る麻紐としっかり咥え込んだ飾りは後にした方が良さそうだ。これを解放してしまえば最後、おそらくは恐ろしいほどの強い色香に襲われるだろう。  ライオネルの肉棒はこうしている今でさえも淫魔を欲している。それなのに今ここでより強力な色香を嗅いでしまえば――抗うことができないほどの欲望が襲ってくるに違いない。  理性も何もかもをかなぐり捨てて淫魔を抱くに違いない。そして自分は欲望に飲み込まれ、正真正銘の化け物に成り果てるのだ。 「――――」  ライオネルはほんの少し目を閉じる。  僅かに残った理性を呼び戻す。そして気を取り直して目の前にある魅惑的な肢体をゆっくりと抱き起こした。  露わになったしなやかな身体にチュニックを被せてやる。  すると聞こえてきたのは喘ぎ声に隠されていたすすり泣く声だった。  改めて淫魔の表情に目をやれば、見開いた赤目(ルビー・アイ)から涙が流れている。その涙は苦しみが見える。どんなに待っても望んでいる肉棒を与えられず、精気を貰えない苦しみか――。  ――いや、違う。すすり泣く声が発せられる唇は静かに動く。  “兄様、ごめんなさい“と――。  果たして彼はいったい何の謝罪をしているのだろうか。そしてそれはベルゼブルやグリゴリ教団と何かしらの関係があるのだろうか。

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