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第三章・情事のあと。(4)

 アマデウスが改めて視線を下に落とす。両胸にある赤く熟れた蕾に剥き出しになっている長い手足。唯一太腿の上に乗っているのはシルクのブランケットのみ。一糸も纏っていないこの状況が全てを物語っている。  ――ああ、なんということだろう。もしかするとこの紛い物の子供を身籠もってしまう可能性がある。  それなのに何故だろう。彼に抱かれたことはベルゼブルほどの嫌悪感がない。それどころか、(むし)ろそうあるべきだと思っている自分さえいる。アマデウスは内心驚いていた。 「何や空気がいつもとちゃうから偵察に行ってみたら案の定や」  シンクレアは神の使いだ。彼女は常に神々の聖域で淀みない清らかな場所で暮らしている。自分達でも察知できないほどの遠く離れた微々たる空気の乱れすらも瞬時に察知することができる。  ベルゼブルは大分ご立腹らしい。そのことは彼女の青ざめた表情から見て取れる。  どうやらベルゼブルはアマデウスが自分以外の相手に抱かれたのが余程気に入らないのだろう。 「――あまつさえ会堂の番人象を破壊した上に結界も破ったんだ。当然だろうな」  彼は静かに頷いた。  あの荒々しい魔力を持つベルゼブルと一戦するかもしれない。  ショックを受けているアマデウスの傍らで、ライオネルは冷静だった。静かに頷いている。  ――気に入らない。  彼は自分を抱いておきながら、アマデウスそっちのけで冷静にベルゼブルの話をしていることが腹立たしい。

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