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第二章・蝿の王。(1)

 (二)  子供特有の細くて小さな足をより小刻にして歩いている。歩調はどこか緊張感を纏い、急いでもいるようだ。アマデウスはできるだけ魔力を抑え、気付かれないよう距離を保ちながら小さな背中を追う。  道行く時折、塀を見つけては身を隠す。彼女もまた誰かを追っているようだった。シンクレアの視線の先を探れば、長い白のローブに身を包んだ長身の男がいた。  あの服にはほんの少し見覚えがある。たしか紛い物の息の根を止めようと彼の後を追い、湖で見た人物が着ていた服と全く同じものだ。  顔までは覚えていないが、彼女の追っている人物はあの男に関係しているのだろう。  実はアマデウス自身もあの件については調べる価値があると思っていたところだった。それというのも、湖で見た『突き刺す蛇(パーシング・サーペント)』が気に掛かっていたのだ。  パーシング・サーペントは、悪魔界の上級三隊、熾天使(セラフィム)の指導者の一人だ。本来ならば彼の役割は悪魔界の均衡を守るよう言い渡されている。当然のことながら、人間界に降りることは悪魔王から強く禁じられている。  ――しかしどうだろう。彼はこの世界に身を宿し、その上、王の息子であるアマデウスを攻撃対象にしたではないか。これは悪魔王への反逆の意を示す。だがここで考えるべきことは、彼が本当にパーシング・サーペントであるか、否か、という事実だ。

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