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第一章・魅了する肉体。(13)

 淫魔はより甘美な声を上げる。  細い足を伝い、流れるのは淫魔が吐き出した蜜だ。  裂かれたチュニックから覗くぷっくりと尖った蕾はライオネルに舐められ、月光に晒されて艶めかしく光っている。呼吸する度に膨らんだり萎んだりを繰り返すそれはとても美しい。  繰り返される浅い呼吸と艶やかに喘ぐ声が赤い唇から放たれる。ブルームーンの目が窄まる。彼はしなやかな肢体を堪能していた。  後孔へと指を滑り込ませると、大きな歓喜の声が上がる。いっそう身体が弓なりに反れた。  肉壁の中を二本の指が擦る。陰茎から滴り落ちる蜜がライオネルがほしいと強請っている。  頬が紅潮し、目尻には快楽の涙が浮かび上がる。  もっと泣かせたい。さらに追い立て、彼の甘美な声を聞きたい。ライオネルの欲望が淫魔のすべてを奪いたいと言っている。  ――ああ、この魅惑的な肉塊の中へ自らの楔を滑り込ませ、貫けばいったいどれほどの快楽を味わえるだろうか。赤い唇からひっきりなしに声を上げ、自分を求めるに違いない。  欲望が淫魔を貫けと命令する。  しかしライオネルは欲望に飲み込まれることの恐ろしさを十分に知っている。  (かつ)ての父親のように振る舞うのはまっぴらだ。  ライオネルは残り僅かな理性を振り絞り、強く唇を噛み締める。  淫魔の惑的する甘い香りが支配する口内に、じんわりと鉄の味が広がった。

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