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第三章・欲望と理性の狭間で。(10)

「さあ、食事をさせてやろう。じきに良くなる――」  ライオネルはいくらかの人間を連れて来ようと立ち上がる。  ライオネルはヴァンパイアだ。一般人(ユマン)よりもずっと良質な精気をアマデウスに与えてやれる。  しかし、である。淫魔は魔力を持った相手に抱かれると身籠もる可能性があった。  いくら悪魔だからといって自分本意な行動で小さな命を弄ぶなんて許されないものだ。  ――ともすれば、ここで淫魔を抱いて身籠もるか身籠もらないかという危険な賭をせず、人間をいくらか連れて来て淫魔に食事をさせてやる方がずっと得策だ。  自分が見ている目の前でこの淫魔が抱かれる。  その光景を想像したライオネルは、何故かいい気分にはなれなかった。頬を赤らめ、快楽の涙を流して雄を懇願するその姿を想像しただけでも不快になる。  何故かは判らない。もしかするとこの淫魔に情が移ったのかもしれない。コルベルと同じような部分を垣間見たからかもしれない。  けれども今は生まれ出たその感情を気にしている暇はない。  なにせライオネルはベルゼブルが操っていた像を二体破壊し、アマデウスの周囲に張っていた結界も打ち破ったのだ。近いうち、ライオネルの存在を知られるだろう。こうしている間にも仲間を集め、こちらへ向かっている可能性だってあるのだ。  事は一刻を争う。  ライオネルは一般人を連れて来ることを決意し、視線を淫魔から外した。  ――その時だ。

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