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第四章・ブルームーンの目。(1)

(三)  ほんの少し開いた木枠の窓からは爽やかな風がレースのカーテンを静かに揺らす。白を基調にした十帖の部屋は、アマデウスが人間界へ降り去った時と何ら変わらない。おそらくアマデウスが何時戻って来てもいいようにとニヴィアが侍従(チェンバレン)に命じ、整えてくれていたに違いない。  母ニヴィアとコルベルはライオネルをアマデウスの寝室に案内するなりすぐに姿を消した。  ふたりきりになってしまった寝室は、シン……と静まり返っている。  時折吹くゆるやかな風がアマデウスの髪を撫でる。 「具合はどうだ?」  ライオネルはややあって口を開いた。 「すごく疲れたに決まっている」  ライオネルはひとつ頷くと、アマデウスを寝台に寝かせた。  ライオネルはアマデウスがこれまでずっと命を狙っていた相手だ。そして抱かれた相手でもある。その彼とこうして自分の寝室にふたりきりでいるのはなんとも居心地が悪い。アマデウスは明後日の方向に顔を向けるとぶっきらぼうに言い放つ。 「君には本当に感謝している」  そんなアマデウスに対して、ライオネルは尚も穏やかな口調だった。 「いいよ、もうそのことは」  ――もう止めてほしい。  人間(コルベル)を助けたのは本当に気まぐれだったのだ。  当時、三人の兄達が次々とこの世を去ったことで悲しみと苦しみがアマデウスを蝕んでいた。  この行き場のない感情を誰かにぶつけたかった。ただそれだけだ。  相手なんて誰でも良かったのだ。

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