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第四章・ブルームーンの目。(2)
たまたま弱いもの虐めをしている悪魔を目にし、兄を失った行き場のない憤りをその悪魔にぶつけただけにすぎない――。
一度は殺意を抱き、抱かれた男に面と向かって礼を言われてもどうすればいいか判らなくなる。
気恥ずかしくなるだけだ。
「もし、万が一にでも君の体内に命が宿ったその時は、全身全霊をもって大切にすると誓うよ」
「べ、別にそんなこと、ぼくは望んでない!」
「――――」
「――つ、つまり、その……何かが欲しくてコルベルを助けたわけじゃないし。それにこれは易々とベルゼブルの罠にかかったぼくの落ち度だ。お前には関係ない」
違う。本当はこんな言い方をしたいんじゃない。
ライオネルにはライオネルの人生というものがある。だからたった一度の過ちのために彼自身の人生を犠牲にしてまでアマデウスの面倒をみる必要なんて無い。ただそう言いたかっただけなのだ。
何故自分はこういう嫌味な言い方しかできないのだろう。アマデウスは自分の辛口な物言いに嫌気が差す。
アマデウスは何と言えばいいのか判らず、開いた口を閉ざした。
「――ありがとう」
アマデウスの頭部に指先がそっと触れる。そうかと思えば、弾力のある湿った何かがアマデウスの額に落ちてきた。
静かな空間に響くリップ音はやけに大きい。
額に触れたこの感触はもう知っている。ライオネルの薄い唇だ。
――どうやら彼はアマデウスの辛口な物言いも嫌味ではないと察したらしい。
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