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第四章・ブルームーンの目。(3)

 これまで彼は常にぶっきらぼうで傲慢な素振りしか見せなかった。それなのに、ふとした瞬間、垣間見せるこの優しさは何だろう。  彼は本当に自分と命の奪い合いをした相手と同一人物だろうか。 (――ああ、顔が熱い)  口づけられた額が熱を持つ。  果たして自分はどう反応するのが正解なのだろう。どうしたらいいのか判らなくなる。  アマデウスはそのまま何を言うでもなく静かに目を閉じた。  視界を閉ざせば色鮮やかだった世界は一変し、薄暗くなる。薄暗いその中で浮かび上がるのは一人の男の姿だ。  男はアーモンド色の目を細め一糸も纏っていないアマデウス肢体を薄ら笑いを浮かべて満足げに見下ろしている。口角を上げ、ねっとりとした笑みがその薄い唇に浮かぶ。  ベルゼブル。三人の兄を殺した憎い仇。  ――それなのに。自分はあの男に傷一つ負わせることが出来ず、物惜しげもなく自らすすんで身体を開く。両胸にあるふたつの蕾は赤く熟れ、反り上がった陰茎は蜜を滴らせて悦んで腰を振る。後孔に熱い楔が打ち付けて欲しいと懇願し、喘ぐばかりの淫らな姿。  あのおぞましい光景が焼き付いて離れない。  相手が兄三人を手にかけていようが関係ない。自分の食欲さえ満たしてくれればそれだけでいい。淫魔とはどれほど醜い存在だろうか。  アマデウスはあれほど淫魔に生まれたことを呪ったことはなかった。  噛みしめた唇から嗚咽が漏れる。  相手が誰だろうと食欲を満たすためなら易々と身体を開く自分が気持ち悪い。

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