116 / 209

第四章・王の弟。(1)

 (五) 「今、この悪魔界は秩序によって守られている。秩序によって成り立つ平和こそが本来の姿だとそう思わないか?」  夜の外套(がいとう)を身に纏ったルジャウダは、下座にいる男に問うた。  男の名はヴェオルム。ルジャウダの弟であり、ベルゼブルの父親だ。兄と同じ漆黒の髪は襟足までの短髪だ。厳粛な雰囲気をもつ二人だが、外見はいくらか違っていた。  ルジャウダも雄々しい体つきをしているものの、身体の線は弟ヴォルムより細い。骨張った輪郭に、鋼のような肉体は筋肉質で頑丈だ。背も幾分か高い。 「――はい、兄上。私も同意見です」  ヴェオルムは胸の前に掌を置いて一礼する。謀反を起こしそうな素振りはまるでないように感じる。  ――ここは大広間。アーチ状になった石の天井はさらに視界を広く感じさせた。木の床や壁面など至る所にかけられている星屑が描かれたタペストリーは見るものの心を奪う。  その大広間の最奥にある黒のカーテンの後ろで、アマデウスは王と叔父の様子を窺っていた。  翌朝、ようやく体力を取り戻したアマデウスはルジャウダとの謁見を許された。  アマデウスは、人間界での悪魔の凶悪化についてや突き刺す蛇(パーシング・サーペント)に酷似した姿をした悪魔が出現したこと。――そしてベルゼブルは悪魔活発化に荷担しているだろう人間界のグリゴリ教団と何らかの繋がりがあること。さらには彼自らが自白した内容――三人の王子を殺害し、王の座を狙っていることを話した。

ともだちにシェアしよう!