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第四章・彼が優しい理由。(1)

 (六)  ――果たして自分が見た突き刺す蛇(パーシング・サーペント)に似た紛い物はいったい何なのか。  人間界の低級悪魔から高級魔族へと変化させることは可能なのか。 「――――」  紛い物であるパーシング・サーペントが出現した時、グリゴリ教団の祭服を着た男が何やら液体を与えていた。  人間界に住む脆弱な悪魔の凶悪化はあの液体に隠されていると見て間違いはない。  あの液体の秘密を暴けばベルゼブルの愚かな策略も阻止できるかもしれない。  ――時はまだ夕刻。  ルジャウダとヴェオルムとの会話を聞き終えたアマデウスは一度寝室に戻ったものの、ベルゼブルのことを考えると落ち着かない。  こうしている今でさえ、奴は悪魔界を手に入れようと画策しているに違いないのだ。  そこでアマデウスは、“脆弱な悪魔が凶悪化する“という件について、何かの文献があるのではないかと思い立った。  目指すは書斎だ。あそこならば悪魔界が生まれた何億万年という長い歴史に刻まれた様々な書物がある。万が一にでも悪魔凶悪化について記された文献が見つかるかもしれない。  先ほど父ルジャウダ王とヴェオルムが居た二階の大広間はもぬけの殻だ。そこを抜けた先には小広間がある。この小さな広間は母ニヴィアがほんのひと時くつろぐ場として設けられたところである。  大広間同様今は誰もいない小広間の壁の一角。そこには美しい貴婦人が描かれた絵がある。

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