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第四章・彼が優しい理由。(3)
アマデウスの両肩に乗ってる少し大きめのコートへと手を伸ばす。
彼にコートを返すだけ。
たったそれだけなのに何故だろう。心臓の鼓動がほんの少し速くなる。それに身体だって――僅かだが少しずつ熱を持っていくのが判る。
(ぼくはいったい、どうしてしまったんだろう……)
戸惑いはある。けれども何故かそれさえも楽しいと思えてしまう。
アマデウスが二人の声がする方へと向かえば――……。
「ねぇ、兄さん?」
コルベルの言葉を合図に歩を止めた。
「兄さんはアマデウスと関係を持ったのよね」
「だったら何だ」
「ここの本にね、記されてあったのよ。太陽が出ている時間でも私たち人間と同じように動く事が出来るって――。ヴァンパイアには淫魔の力が有効らしいわ。一度情交すると大体三日は太陽の下にいても平気みたい。兄さんはそのことを知ってて関係を持ったの?」
――全身から力が抜け落ちていく。
ついさっきまで確かにあった熱も、鼓動も消え失せていく――。
コルベルが話した内容に驚きを隠せない。
アマデウスが彼女を助けた当時。“闇に堕ちた兄を助けたい“という話を聞いたことがある。それはあまりにも真剣な眼差しだった。三人の兄を殆ど同時に失ったばかりのアマデウスは彼女と自分を重ねた。だから彼女の決意を助けたいと思い、この書斎を自由に使うことを許したのだが――まさか彼女の兄がライオネルだったとは。
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