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第四章・彼が優しい理由。(4)

 そしてこの書斎にヴァンパイアの秘密が記されていようとは思いもしなかった。 「――――」  二人の会話から察するに、ライオネルは淫魔である自分を利用したということだ。  もし、コルベルの話が真実だとするならば、大丈夫だと宥めてくれたあの優しい声音も――素振りも全て嘘偽りだったのだ。  ――ああ、なんということだろう。  自分の身体と地位を欲したベルゼブルと淫魔の力を利用したライオネル。  結局は彼もベルゼブルと同じ穴の狢だったのだ。  “大丈夫“  “落ち着くまで一緒にいよう“  そう言ってくれたあの言葉も素振りも――すべてアマデウスを利用するためのものだった。 (悔しい)  少しばかりライオネルに心を許しつつあった自分が――。  こうやって未だ彼のコートを羽織っている自分が――。  憎しみが憎しみを増す。  もう何も考えられない。  ベルゼブルや人間界の悪魔のことなど今はどうでもいい。  悔しい。悲しい。  書物を見る気力さえも失ったアマデウスはおぼつかない足取りで書斎を出た。来た道と同じ通路を一切の灯りもなく抜けていく。  今のアマデウスにとって、この闇が丁度良かった。  やがて螺旋階段の最上段に辿りついたそこにあるだろう絵画へと手を伸ばした。 「ライオネルは一緒じゃないの?」  視界は一気に明るさを取り戻す。同時に聞こえてきた声にアマデウスは、はっとした。

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