123 / 209

第四章・彼が優しい理由。(5)

 ――なんとタイミングのいいことだろう。  小広間のそこには来る時には姿がなかったニヴィアがいた。  彼女はティーカップを片手に、木材の椅子に(もた)れかけるようにして座している。ゆったりとした面持ちでこちらを見ていた。  彼女の翡翠色の目は輝きを増し、ティーカップに口を付ける赤い唇は薔薇色に染まっている。頬は火照てり、上気している。ほんの少し肩からずれたキャミソールから零れ落ちんほどの胸はふっくらと瑞々しい。  どうやらニヴィアはルジャウダとの甘いひとときを過ごしていたらしい。表情も身体も。彼女のすべてが悦びを語っている。  翡翠の目がアマデウスを写し込む。  しかし、アマデウスは今この時にニヴィアと出会したくないと思った。  殊更、愛を交わし合ったばかりの彼女には!! 「何故?」  そんなことを聞くのだろうか?  ぶっきらぼうな口調になるのは仕方がない。今、自分の思考さえも何を思っているのか判らないのだから――。 「コートを返しに書斎に行ったのではないの?」  彼女の細い人差し指がアマデウスの肩を指した。  常のニヴィアであればアマデウスの態度におかしいと思うだろうが、彼女はルジャウダに抱かれ、悦に浸っている。それどころではない。  彼女の指した肩を見下ろせば、ライオネルのコートが未だにぶら下がっている。 「知りません! あんな奴!」 (自分の為なら何だって利用する)  あれはベルゼブルとなんら変わりない。

ともだちにシェアしよう!