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第四章・もう抗えない。(1)
(七)
今夜の下弦の月はほんのり白く発光している。天界の光は消え、闇が訪れるその時。悪魔城はまるで眠りについたように人の気配はない。そんな中、アマデウスは自室を抜け出し、別棟にある客間の一室に足を向けていた。狙うはライオネルの首。
彼の寝室へ急ぐ。
彼の寝室は三階にある。螺旋階段を上った一室――扉の向こう側にいる。
アマデウスは扉の取っ手を押した。
扉は物音さえも立てず、静かに開く。鍵さえもかけないなんて不用心も甚だしい。これは悪魔界で自分の命を狙う者がいないという不抜けた精神からなのか、それともどんな相手でも勝てるという自惚れなのか。
どちらであっても愚かなのには変わりない。
アマデウスは息を殺して標的を探す。するとダブルベッドの上で尚も窮屈そうに眠る仰向けになった男の姿を発見した。
ライオネルだ。
彼はどうやら正真正銘の愚か者らしい。身に纏っているのはチュニックとスキニーパンツのみ。丸腰だ。武器のひとつも装備していない。
(その眠りも一生目覚めぬものとなるだろう)
アマデウスは懐に仕舞っていた短刀の柄を握った。
彼の上に影が被さる。
闇夜の中で下弦の月の光が反射し煌めく。鋭い切っ先を喉元に突きつけた。――それとほぼ同時だった。
「寝込みを襲うなんていい度胸だな」
ブルームーンの目が開いたかと思えば、視界が反転する。
アマデウスの身体はベッドに押さえ込まれた。
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