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第四章・もう抗えない。(4)
快楽さえ与えられれば自分は誰にでも身体を開くのかと思えば苦しい。
酷く惨めだ。
身体は熱を持っているのに心が凍えそうに冷たくなっていくのが判る。
視界が歪み、世界が滲む。
果たしてこの涙は快楽なのか、それとも別のものなのか。
アマデウスには、わけがわからない。
閉ざした唇は嗚咽を殺す為のものだ。けっして嬌声を消したいが為ではない。
「――――」
アマデウスは目を瞑り、声を掻き消し、静かに涙を流す。
いったい何時から自分はこんなに泣くようになったのだろう。
他人に弱さを見せる自分にも嫌気が差す。
視界は暗闇に染まる。
視界に写る何もかもが消えた時だ。
ふいに身体が軽くなった。同時にアマデウスの身体に触れていたその手も消え去る。
「――アマデウス? すまなかった。何もしない」
その声はとても優しく、甘いもの。
ベルベットにも似た――あの声音だった。
アマデウスは閉ざした視界をうっすらと開けていく……。
ライオネルはアマデウスのすっかり固くなった身体を優しく引き寄せた。
「ライオネル?」
(何を――――?)
大きな掌がアマデウスの垂れ下がった頭を撫でてあやす。
「もう何もしない」
もう一度、彼は静かにそう告げた。
悲しみで丸まった背中に回る腕。
ライオネルの仕草にアマデウスの胸がいっぱいになった。
「――――っひ……」
騙されてはならない。彼はこうやって自分を陥れ、力を蓄えようとしているかもしれない。
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