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第四章・もう抗えない。(5)
なにせ彼が太陽の下を歩くには自分の力が必要だ。
きっとアマデウスの緊張が治まれば、また無理矢理にでも抱くつもりだ。
――それなのに、彼はアマデウスの背中を優しく叩くだけで何もしようとしない。
ポンポン、ポンポン。リズミカルに動くその指の動きが心地良い。
自分は淫魔だ。こうして側にいるだけでも相手を誘惑する。況してや、ライオネルは活力吸血鬼 だ。普通でもこれを拒絶するのは困難を極めるのに、淫魔の誘惑する力に勝てるはずがない。それなのに……。
――ああ、彼は無理矢理自分を抱かない。
ベルゼブルのように己の野心だけでは動かない。
そう実感すれば、一度は冷えた身体に熱が戻る。
それはアマデウスがライオネルを想っているのだと思い知った瞬間だった。
――もう抗えない。
――この気持ちに逆らえない。
アマデウスの気持ちはすっかり彼に傾いていた。
彼に惹かれたのはいったい何時からだろう?
今思えば、一目惚れだったのかもしれない。何もかもを見透かすようなこの冴えた青い目に惹かれたのかもしれない。
ふと見上げれば端正な顔立ちがそこにある。ブルームーンの目が静かにこちら側を見下ろしている。
その視線に射貫くような鋭さはない。
優しく見守るような、あたたかなものだった。
また涙が出そうだ。けれどもこの涙はけっして悲しいものではない。胸に込み上げてくるのは――。
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