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第四章・もう抗えない。(6)
泣くまいと必死に唇を噛みしめる。するとアマデウスの背に回る逞しい腕に力が入るのを感じた。
まるであらゆる恐怖から守ってくれているような、そんな力強さを感じる。
アマデウスをそっと包み込むこの力強い腕も――。
優しい落ち着きのある低い声も――。
何もかもがアマデウスを魅了する。
“彼を愛しているのね“
――ああ、愛してしまった。
――もう逃げられない。
たとえ、ライオネルが自分を利用しようとしているのだとしても。
(それでもぼくは……)
アマデウスは覚悟を決めて目を閉じた。
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