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第四章・掻きたてられる保護欲。(1)
(八)
“太陽の下を歩くには淫魔の力が有効だ“
生物学をこよなく愛する妹のコルベルはそう口にした。
無論、ライオネルはそんな効能を知っていてアマデウスを抱いたわけではない。例え知っていたとしても、抱くつもりは毛頭なかった。
しかし、相手が求めてくるとなると話は別だ。彼が寝室に姿を見せた時はその力を利用してもいいかもしれないとも考えていた。
なにせ相手は淫魔 だ。精気を取り込み食事をする悪魔。ならばライオネルの精気を欲しているに違いない。
況してや自分を殺そうとしている淫魔ならば情けは無用だ。情に絆されれば破滅を迎える。このことは弱肉強食の世界に生きているライオネルが身に染みて実感している。
それなのに――。
ライオネルは、ふと自分の腕の中で安らかな眠りについている青年を見下ろした。
彼はあろうことか殺意を以てライオネルの寝室に足を運んだ。だからその身体を組み敷き、淫魔の特性を利用しようと思った。
それなのに――。
こうして彼の側にいるだけで誘惑する香りがライオネルを襲っている。
ライオネルを狂わせようとする強烈な甘い香りが鼻孔から流れ込み、全神経を痺れさせてくる。中心にある欲望を刺激し、今からでも遅くはない。早く自分を解放しろとスキニーパンツを押し上げる。
それなのに、ライオネルの身体が動こうとしない。
――いや、身体が動こうとしないのではない。ライオネルの意思が動けなくさせているのだ。
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