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第四章・掻きたてられる保護欲。(2)
寝息を立てて眠る無防備な彼の姿が愛らしい。恐ろしい悪魔だということさえも感じさせないその安らかな寝顔。
頬に流れるその一筋の涙を月光が照らしている。
ライオネルが組み敷こうとした時、泣いて抵抗した彼の表情は快楽とはほど遠いものだった。恐怖と悲しみ。そして自分を責め苛む感情。これらの感情はライオネルが活力吸血鬼 であるがゆえに汲み取れる、一種の特殊能力でもあった。
アマデウスは自分が淫魔であることに苦しんでいる。そう理解した時だ。ライオネルは優しく接したいとそう思った。それはグリゴリ教会の中で捕らわれていた彼を目にしたあの時よりもずっと強い感情だ。
泣き叫んだ彼を目にした時、苦しみを解放してやりたい。己を責めなくても良いと、慰めてやりたいと思った。
果たして彼は未だ夢の中で苦しみの中にいるのだろうか。
ライオネルが親指でそっと涙でできた筋を掬い取ってやれば、
「う~ん」
悩ましい声を上げて懐に身を埋めてくる。
その姿があまりにも可愛らしく思えてしまう。気が付けば常にへの字に曲がった口が弧を描いている自分に気が付いた。
誰も知らないアマデウスの表情をもっと見てみたい。
ライオネルは純粋にそう思った。
アマデウスに対して欲望はないといえば嘘になる。けれどもそれ以上に優しくしてやりたい。守ってやりたいと思っていた。抱きたいという願望はあるのに、それ以上に甘やかしたいと思うこの保護欲。
彼は意図も容易くライオネルの中に眠っていた母性を引き出す。
この淫魔には勝てる気がしない。
ライオネルは欲望を押し殺し、その腕にあたたかな体温を抱きしめたまま目を閉じた。
――恋慕編・完――
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