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第四章・談合。(3)

 それでもアマデウスにとって、ベルゼブルのあの一件は堪え難い出来事だった。  膝の上で握る拳が震える。足の爪先から冷たいものがアマデウスを覆っていく――。  アマデウスは唇を噛みしめ、当時のことを思い出して自分を責め苛んだ。アマデウスは闇の中にいた。この世界には自分ひとりきりで誰もいない。その思い込みがふいに打ち消された。骨張った大きな手がアマデウスを包んだからだ。  アマデウスは、はっとして手を差し出した彼の方を見る。  ライオネルの視線の先にはアマデウスはいない。明後日に向けられている。彼は眉間に深い皺を刻ませていた。常に結ばれているへの字の唇はさらに引き結ばれ、ブルームーンの目は一切の光が消え失せ、青い炎を宿していた。  彼のその姿はまるでアマデウスのされた仕打ちに対して憤怒しているように見える。  それなのに、アマデウスの手を包み込む手はまるで優しかった。すべてを包み込むような力強さがあった。  アマデウスの心が静かになっていく……。空いている片方の手を彼の手の甲に置き、そっと撫でた。  そうしてようやくブルームーンの目がこちらを見下ろす。アマデウスを写すその目には怒りの炎は消えている。光を宿し、労りの眼差しを向けていた。この目は気遣いだ。まるで自分を責めなくていいと言っているように――

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