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第五章・アマデウスの決意。(2)
背中を包む力強い腕を意識すれば、ライオネルへの慕情が増す。
一度、彼への慕情に気が付けば嵌って抜け出せなくなるのは目に見えていた。
だからアマデウスはライオネルに惹かれていることを本能的に拒絶した。
けれどこの慕情に気が付いてしまった。もう抗えない。だって彼は揺るぎない信念と深い思いやりに溢れた紳士なのだから。
淫魔の魅了する力は凄まじい。惑的されればけっして逃れることはできない。それは蟻地獄のようなもので、足掻けば足掻くだけ引き寄せる力は強くなる。況してやライオネルは活力吸血鬼 だ。負の感情を食らう悪魔や血液を吸うヴァンパイアとは違い、嗅覚、感じる力はずば抜けて鋭い。おそらく彼の本能がアマデウスの活力を奪おうとする筈だ。淫魔の力に抗うには、いったいどれほどの忍耐力が必要だろうか。
こうして側にいるだけでも苦しい筈なのに、彼は自分を抱かない。彼の超越した理性。ライオネルの優しさがアマデウスの胸を打つ。だからこそ。彼をむざむざと殺させてはならないのだ。
ベルゼブルの一件は元々は悪魔界から出た不祥事。人間界に住むライオネルの仕事ではない。王が動けないのならば、王子の立場であるアマデウスが始末しなければならない。
「誰にも貴方を傷つけたりなんてさせない」
決意したアマデウスは、名残惜しく思いながらも逞しい腕の中から抜け出した。すべては世界の均衡を守るため。ベルゼブルとの決着をつけるために――。
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