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第五章・敵対。(2)

「おれが彼を抱いた。なあ、アマデウス。純血たる悪魔に抱かれ、身籠もることができるなら光栄だよなあ」  手を伸ばし、唇を戦慄かせ涙を流すアマデウスの顎を持ち上げる。膨れ上がったアマデウスの腹をそっと撫でた。 「やがておれの子供が生まれるだろう。実に待ち遠しいよ」  腹部にじっとりと手を這わせ、円を描きなぞる。  ベルゼブルはうっとりと眺めた。  そして彼は立ち上がり、新参者と向き合うとすぐに表情を一変させた。 「紛い物風情がおれの肉奴隷(アマデウス)に手を出しやがって!」  ベルゼブルの毛穴から飛び出したどす黒い陰湿な魔力は一気に膨れ上がる。眉間に深い皺を刻ませた。同時に彼は恐ろしい速度を(もっ)てヴァンパイアと一気に間合いを詰める。青ざめた顔をスクラップにするため、握り拳を繰り出した。  しかしヴァンパイアは忌々しいことに尚も食い下がる。ベルゼブルの拳を受け止めた。 「おいおい、無茶はするなよ。立っているだけで精一杯なんだろう?」  互いに譲らない力。二人の手からミシミシと骨が軋む音がする。ベルゼブルは立ち込める魔力をすべて拳に集中させた。 (まずは骨の一本でもへし折ってやろうか)  すぐには殺させない。おれの計画を邪魔した罪だ。たっぷり恐怖を味わい、死んでいくがいい。  ベルゼブルはもう片方にも拳を作ると、ヴァンパイアのみぞおちに強烈な一撃を食らわせた。  衝撃に吹き飛ばされ、ヴァンパイアの身体が会堂の壁を撃ち抜く。  彼はもうすでに虫の息だった。太陽の光を浴びすぎたのだ。力は根こそぎ吸い取られていく。

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