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第五章・願い、乞う。(1)

 (五)  そして彼の残酷な話はまだ続く。 「そしておれは考えた。もし、低級の悪魔に純粋な悪魔の血液を与えればどうなるだろうか。もしかすると忠実なおれの僕にできるかもしれない。しかしこれはまだ実験段階でしかない。手始めは人間界だ。下界に降り立ったおれは人間の強欲さに驚かされた。富、名声、性欲――何もかもを欲しがるじゃないか。奴らは悪魔となんら変わらない。人間という生き物が面白くなったおれは、もっとも強欲な人間と知り合い、悪魔の純粋な血液を人間界の脆弱な悪魔に飲ませればどうなるかを実験したくなった。その実験場所がこのグリゴリ教団だ。しかし、おかしい。何度やっても脆弱な人間界の悪魔はおれのように強力な力が出せないんだ。そして思った。強欲な人間の負の感情の血液も一緒に混ぜて飲ませればどうなるだろうか、と――実験は成功した。純血の悪魔の血と人間の負の感情が含まれた血液を飲ませた脆弱な悪魔は凶暴化し、さらにはアマデウス、淫魔(キミ)の力さえも利かない。そしてご存知のとおり、あの湖で突き刺す蛇(パーシング・サーペント)を作った。すべては、おれが君の大切な三人の兄の血をいただいたことで――だからお前の兄たちはおれの中で永遠に生きるんだ。血肉となってな……」 (ああ、兄さん……)  アマデウスは絶望にむせび泣く。頬に流れる涙が地面に染みを作っていく。握り締めた拳は血を滲ませていた。  苦痛。深い悲しみ。アマデウスの心が絶望に暮れた。色鮮やかな景色は灰色へと変わり、何もかもががらがらと音を立てて崩れ落ちていく。

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