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第五章・願い、乞う。(2)

 アマデウスの悲痛にすすり泣く声が周囲に響くばかりだった。  そんな中、ある一点で冷ややかな空気が生まれた。その空気は鋭利な刃と化してすぐ側まで迫り来る。  目覚めたライオネルがベルゼブルと間合いを一気に詰めたのだ。そして首の根元を掴むと彼を持ち上げた。圧倒的速度を持つベルゼブルは怒りを露わにしたライオネルのスピードに敵わなかった。  彼の足の爪先が地面から浮く。ぎしぎしと骨が軋む音が聞こえた。  アマデウスはライオネルの怒り狂う呻り声に救われた。  我に返り、視線を上げる。すると数メートル先でベルゼブルを持ち上げる彼がいるではないか! (ああ、ライオネルが死んでしまう!)  彼が深々と被っていたフードが消えている。周囲には皮膚が焼ける不快な匂いが立ち込めていた。 「もういい! やめて!! 貴方が死んでしまう!」  手を伸ばせば、しかしそれも敵わない。  ベルゼブルは宙吊りにされたまま勢いをつけライオネルを蹴り上げた。  瓦礫が崩れる巨大な音が生まれ出る。 「ライオネル!」  距離が生まれたことを好奇として受け取ったアマデウスは地面にひれ伏すライオネルに駆け寄った。 (ああ、神様。ライオネルから太陽を取り除いて!)  アマデウスはその肉体を以(もっ)て容赦なく降り注ぐ太陽の光から彼を庇う。  ライオネルの表情には、怒りも、苦しみも、何も浮かび上がらない。彼は力を失っていた。 「ヴァンパイアだってことも忘れてのこのこやって来たのか? 馬鹿な奴だ」

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