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第五章・願い、乞う。(3)

 お返しだと言わんばかりにベルゼブルはひれ伏すライオネルの首根っこを掴んだ。人形のように身動きもしないその肉塊を引き上げる。 「やめてっ! ライオネルを殺さないで!!」  太陽光が余すところなくライオネルに降り注ぐ。顔の原型はすでにない。皮膚がぷすぷすと気泡を立てている。最早アマデウスが恋したブルームーンの瞳は消え、白目を剥いていた。今やだらんと垂れ下がった口からは血が流れ、鋭利な顎を伝って滴り落ちていく……。 「お願いだ、ベルゼブル! お願いだから……」  必死に乞うアマデウスの姿が面白くて仕方がない。ベルゼブルは太陽の日差しが良く当たる中心部へと引き摺り上げ、掲げる。 「ライオネル、ライオネル!!」  アマデウスの悲痛な叫びが会堂中に響き渡る。 (彼が死んでしまう!)  赤い目から大粒の涙が幾数にも零れ落ちていく。 「ベルゼブル、お願いだ!」  アマデウスはベルゼブルの腰にしがみつき、ただひたすらに彼を解放してもらえるように乞う。  しかしベルゼブルは恐ろしく残忍な悪魔だった。  彼はこれが最後だと言わんばかりに醜い笑みを浮かべ、腰にしがみつき許しを乞うアマデウスに向けて非情な一撃を食らわすのだ。 「そうそう、おれに殺されかけていたギデオンだが、奴はおれに何と言ったと思う? "アマデウスは――弟だけは助けてくれ"と命乞いをしてきたんだよ。馬鹿な奴だ。今から殺されるってのに自分の弟のしかも守れない命を心配をしたんだ」 (ああ、兄さん……)  アマデウスは声もなく地面に跪く。

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