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第五章・願い、乞う。(4)
ギデオンはベルゼブルに殺される間際、いったいどんな気持ちでいただろう。おそらく、今アマデウスがライオネルを思うこの感情と同じだったに違いない。
自分の身より、自分以外の愛おしい人を思いやる真の強さ。
悔しい。悲しい。苦しい。すべての感情が交じり合って虚無を作り出す。アマデウスの開ききった目からは涙が流れ、止まらない。
ベルゼブルの醜い言葉を聞いた時だ。ライオネルの焼け爛 れ腐敗していくその指がぴくりと動いた。
そうかと思えば腹の底から唸り声を上げ、ベルゼブルの頭を掴む。間髪入れずにみぞおちに拳を食らわせ、そのまま横へ放り投げた。
恐ろしい衝撃。轟音が鳴り、砂埃が舞う。彼の攻撃はおぞましいものだということがそれだけで判った。
「愛も知らぬ外道が、アマデウスの兄達を笑うな……」
ライオネルは静かに唸り、膝を突く。倒れるその肉塊をアマデウスが支えた。
「ライオネル、ああ、ライオネル……」
「君は無事か?」
ライオネルの方が重傷なのにアマデウスを気遣う。彼はまるで、ベルゼブルに殺されるその寸前までさえもアマデウスの身を案じた兄ギデオンのようではないか。
(心優しいぼくの騎士)
「ぼくは平気。ライオネル、だから……お願い、死なないで……ぼくを、ひとりにしないで……」
アマデウスは何度も頷き、涙を流す。
「紛い物ごときがこのおれを本気で怒らせたな!」
土煙が舞う中、ベルゼブルが立ち上がった。
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