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第五章・願い、乞う。(5)

「お前にライオネルは殺させない……」  アマデウスは両腕にライオネルを抱きしめた。しかし彼による次の攻撃はなかった。  代わりにベルゼブルはヒキガエルが潰れたような声を上げたのだ。身体はだらりと垂れ下がり、それっきり動かない。  ベルゼブルの身体が宙に浮く。彼の腹部は鋭い切っ先で貫かれていた。背後には白い衣を身に纏った老人がひとり。襟首には金の刺繍が施されている。おそらく彼こそがグリゴリ教の教皇だろう。黒幕の張本人だとアマデウスは思った。  彼はベルゼブルを貫いたまま、その肉体を引き摺りこちらまでやって来ると、ぴたりと歩みを止めた。  教皇は目を細めてアマデウスの一糸も纏わない肢体を眺める。品定めをするような目付きに、アマデウスは悪寒を覚えた。 「ふむ、なかなか美しいのう。その肉体、儂も欲しくなるわい」  ライオネルは唸りながら立ち上がる。皮膚が焼け爛れていくことさえも構わずに自らを陰にして覆う。アマデウスを背後へ隠した。まるで、アマデウスを守るように――。 「騎士気取りかね? まあいい。儂もこの小僧は気に入らなくてのう。お前さんといずれは決着をつけようと思うが、今はお前さん達に勝てる気がせん。どれ、この血を飲んで強くなるかのう。決着はまた後ほどじゃて。儂の名はアザゼル。お前さんを葬る名だ。しかとその胸に刻め……」  干からびた笑い声と共に足音が消えていく。やがて周囲に静寂が戻った時、ライオネルの意識も途絶えた。 「ライオネル!」  彼の名を呼ぶアマデウスの声を子守歌にして――

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