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第五章・それでも傍に。(2)
「ああ、母上。どうしよう。このままライオネルが目を覚まさないかもしれない。ぼくは……ぼくは……」
ライオネルの皮膚は未だ焼け爛れたまま、表情も判断できないおぞましい姿をしていた。
アマデウスの顔は涙で濡れきっている。ニヴィアに縋り、泣きじゃくった。
「アム……信じましょう。きっと大丈夫よ。だって彼は貴方の騎士なんでしょう? だったら貴方を置いて遠くへ旅立つ筈はないもの……」
アマデウスの頭を撫でながら、幼子を宥めるようにそう言った。その声はとても優しく、愛情あるものだ。
「彼よりも貴方は平気なの? あれから一睡もしていないでしょう?」
ニヴィアはアマデウスの身体を労っているのはたしかだ。それもその筈、ベルゼブルに無理矢理抱かれたのだ、体力の消耗も激しい。
「眠れないんだ」
アマデウスは静かに首を振った。
「アム、きっと彼なら大丈夫よ」
最後にそう言い残すと彼女は額に口づけを落として席を立った。
「ーーーー」
この広い部屋に二人だけ。
「ライオネル、お願いだ。死なないで……」
全身に包帯を巻きつけられている姿は痛々しい限りだ。キングサイズのベッドで眠るライオネルの髪をそっと撫でる。
苦痛を漏らす薄い唇はすっかり赤く爛れている。たとえ彼がどんな姿をしていても自分が恋した相手には違いない。アマデウスはそっと口づける。
すると腹の底からくぐもった声が彼の口から飛び出たのを聞いた。
――どうやら彼は本能で自分を欲しているらしい。これはいい兆候だとアマデウスは思った。
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