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第五話・それでも傍に。(4)
胸が痛い。目蓋が熱い。唇は戦慄いて今にも大声で泣いてしまいそうだ。それでもアマデウスは唇を閉ざし、涙する。声を掻き消して、静かにむせび泣く。
それなのに――。
「アマデウス……」
その声はとても掠れ、嗄れている。弱々しいものだ。けれどもアマデウスには、はっきりと聞こえた。この静寂の中で彼は自分の名を口にしたのだ。
「ライオネル? ぼくが、判るの?」
アマデウスは目を瞬かせる。その度に、新たに生まれ出た涙が零れ落ちた。
彼の薄い唇が赤い目から溢れる涙を掬い上げる。この行為はライオネルが活力を吸い取る方法とは何ら関係ない。
アマデウスはあたたかな涙を流す。胸の痛みが消え、代わりにライオネルを求めて身体中が熱を持つ。
(ああ、ライオネル!!)
「好き……」
(ライオネル、貴方が――)
この声は聞こえていないだろうことは知っている。それでも、アマデウスは胸に溢れた想いを口にせずにはいられなかった。
ライオネルはくぐもった声を上げ、身体に巻き付いている包帯を引き千切る。ざらついた舌でアマデウスの口内を蹂躙する。
アマデウスは甘い声を上げ、肢体を開いた。
想いの丈を一度紡いでしまえばもう止まらない。
アマデウスは逞しい腕に抱かれながら、何度も彼の名を紡いだ。
――第五章・完――
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