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最終章・Isaac (1)
(一)
ふと目を開ければ、白い光が視界に入ってくる。天井に描かれた美しい星々と空。太陽にも似た光が差し込む大きな窓からはバルコニーが見える。この広く美しい部屋と眩い光に当たっても腐敗することのない肉体――ここはおそらく悪魔城だろうことはすぐに察しが付いた。
身体を起こし、傷ひとつない肉体が見える。
――さて、これはいったいどういうことだろうか。たしかに自分はベルゼブルと対決した。あの太陽の光といったら、煩わしいことこの上なかった。身を焼き尽くさんばかりの灼熱の炎。肉が焼け付く酷い匂い。ライオネルは地獄を見た気分だった。
しかしおかしい。自分はなぜこうも健全でいられるのだろうか。あれだけ重傷だったのだ。通常なら完治するまでにもっと月日がかかる筈だ。そこでライオネルは自分の隣で静かに寝息を立てている彼の存在に気が付いた。
もう少し視線を下ろせば、アマデウスの姿があった。彼はまるで金色に輝く天使さながらだった。窓から差し込む光が金の髪の一本一本を輝かせる。時折、開いている小さな窓から侵入したそよ風が、艶やかなその髪をさわさわと揺らし、弄ぶ。淡い光に包まれている柔肌はまさに発光しているようだ。きめ細やかな肌は静かに影を落としていた。目尻から頬にかけては涙の痕が見える。一糸も纏わない身体をベッドに沈ませて……。
なんということだろうか。ライオネルはアマデウスの姿に頭打ちを食らった。
彼は瀕死の自分に身を差し出したのだ。だからだ。いつもよりもずっと体力の回復が早いのは――。
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