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最終章・Isaac (4)

 そっと紡がれる言葉は静かで、まるで囁きにも似たものだ。しかしその言葉はあまりにも健気だった。自分の身の上のことよりもライオネルの身体を心配したのだ。  ライオネルは彼の腕を引っ張った。彼を自分の腕の中へと収める。 「ライオネル……?」 「どうやらまた、おれは君を抱いてしまったようだ」  耳元でそっと囁く。しかしこの言葉は謝罪ではない。感謝の気持ちだ。骨張った指でそっと後頭部を撫でつける。 「構わない。ぼくがそれを望んだから……」  ……間違いない。この魅力的で可愛い淫魔は自分を好いてくれている。そう思うとライオネルの心が満たされていくのを感じた。  あたたかな体温が今、この腕の中にある。アマデウスを感じてライオネルが目を閉じれば、すすり泣く声が聞こえた。肩が小刻みに揺れている。 「アマデウス?」 「貴方が、死んでしまうのかと思って……よかった」  ライオネルを見上げて涙を流しながら微笑する彼は本当に悪魔だろうか。アマデウスのあまりの美しい姿にライオネルの全身はまるで雷に貫かれたような錯覚を受けた。 「ああ、おれの光の天使(イサク)」  ライオネルはくぐもった声を出した。それからアマデウスを押し倒し、口づけるために後頭部を固定する。自らの口で赤い唇にかぶりつた。  ふいに訪れた深い口づけにアマデウスも負けじと腕を回し、彼の背中に絡みついた。 「抱いて……」  口づけの合間に繰り出される甘い言葉。

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