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最終章・拒絶。(2)

 ベルゼブルは自分のことを肉奴隷だとそう言った。兄達を死に追いやったあの悪魔は許せないが、その点についてはアマデウスも異論はない。所詮、自分は淫魔だ。相手がたとえ憎き仇であっても、腹が減れば誰にでも身体を開く。だからそれを利用すれば自分を傍に置いてくれると、そう思った。そしてライオネルも淫魔である自分を利用して、太陽の光が差すその下を悠々と歩くのだ。  アマデウスはてっきり、ライオネルはアマデウス自らが放つ淫魔の香りに誘われたのだと思った。淫魔の力は強烈な肉欲を生み出すから――。だから彼は食事をしたがっていたのだと思った。自分を抱き、欲望を解き放ちたいのだと――。  アマデウスはたとえそれが自分の本心ではないにしても、ライオネルの傍にいられるのなら"肉奴隷でもいい"とそう思った。だから彼に身を捧げようとした。  だが、結果はどうだろう。彼は去ってしまった。  ひょっとするとライオネルは誰彼構わず身体を開く自分を穢らわしいと思ったのだろうか。  こんな醜い自分の身体を気に入らなかったのだろうか……。 (嫌われたんだ――)  魅了という淫魔の特質を(もっ)てでさえも拒まれてしまった。もう傍に置いてはくれない。  赤い目からは止めどなく涙が溢れる。アマデウスは誰もいなくなったキングサイズのベッドの上で泣きじゃくった。

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