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最終章・彼の真意。(1)

(三) 「うなああああっ! さいっあくや! うちは神の使いやで? なんで敵方の悪魔界におんねんっ!」  白猫シンクレアは目覚めるなり頭を抱えて叫んでいた。  ここはアマデウスの寝室だ。何故彼女がアマデウスの部屋にいるかというと、神の使いであるシンクレアを他の部屋に移せば色々と厄介なことになるだろうことをニヴィアが懸念したからだ。  上級クラスの悪魔であるベルゼブルの瘴気に充てられた身体はすっかり健康だ。その彼女は優雅な身のこなしで窓辺から降りるとベッドで膝を抱えて蹲るアマデウスの側に駆け寄り、ちょこんと座った。 「アム? 大丈夫かいな?」  心配そうに尋ね、顔色を窺ってくる。 「――――」  ――大丈夫なわけがない。恋をしている男性に突き放されたのだ。身も心も引き裂かれそうに痛む。  するとどうも自分の身の周りは煩い輩が多い。軽快に扉を叩く音がした。 「……開いてる」  一人にさせてほしいと思えば思うほど、人が寄ってくるのは世の常か。アマデウスは小さくため息をついて顔を上げる。この部屋にやって来たのはコルベルだった。 「ねぇ、兄さんを見かけなかった?」  それはアマデウスが今一番聞きたくない質問だ。アマデウスは唸り声を上げながら赤い目(ルビー・アイ)をぐるりと回した。 「何故ぼくにそれを聞く」 「だって兄さん、貴方に首ったけだもの」  アマデウスのごくごく自然な問いに、しかし彼女は腰に手を当て仁王立ちをした。

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