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最終章・王の涙。(2)

 そこまで言うと、ライオネルの言葉が詰まった。それというのも、ベルゼブルが――あの汚らしい手が可愛いアマデウスに触れ、陵辱した当時の光景を思い出したからだ。彼のあの行為は万死に値するほどだ。思い出しただけでも腸は煮えくりかえる。ライオネルは奥歯を噛み締め、唸りそうになるのを懸命に抑えた。そして話しを続ける。 「ベルゼブルは、たっぷりと負の感情を与えた人間の血と、亡き王子達の血を混ぜ、悪魔の混血種を作り、凶悪化させたそうです。そして、ベルゼブル自身も三人の王子の血を飲み、力を持った。しかしベルゼブルも教皇に殺されました。教皇はベルゼブルとベルゼブルが飲んだ三人の王子の血を――最強クラスの血液を手に入れました。奴がその力を得るのも時間の問題でしょう」 「そのことだが、どうやらグリゴリ教が動き出したようだ。人間界の悪魔達が何やら騒いでおる。予は悪魔界を統括する者だ。予が動けば世界の均衡が崩れてしまう。それ故、人間界には手出しができぬ」  そこまで言うと、ルジャウダは静かに口を閉ざす。彼の顔には陰が差している。その表情には疲労が宿っていた。 「そのことは懸念する必要もございません。わたしは神と契約したヴァンパイア・ハンター。この一件はすべて片付けましょう」 「すまぬ。何もしてあげられぬ無力な王を許してくれ。ベルゼブルの謀反を見抜けなかったは予の器量不足ゆえじゃ、実に申し訳なく思う。予の不名誉の所為で我が王子達は――ギデオン、グスタフ、ダグラス……」

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