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最終章・王の涙。(3)
「そのようにご自分をお責めにならないでください。亡き王子達はきっと、心優しい王の元で生を受けたことを誇りに思っておられることでしょう。何よりアマデウス王子は心より王をお慕いされておりますれば――」
ルジャウダの広い両肩が小刻みに震えている。ライオネルの言葉に顔を上げると、大きな手で覆うそこから頬に滑り落ちるものが見える。口から漏れる声も肩に合わせて少しばかり震えていた。
ライオネルはそっと腰を上げると、静かに一礼する。そして大広間に背を向けた。閉ざした大きな扉にその身体を預け、詰めていた息を吐く。もう自分に迷っている時間はない。あの強欲なアザゼル教皇を抑えることができるのは自分しかいないのだ。
「兄さん!」
扉の前で立ち往生していると、コルベルが呼びかけた。彼女は息を切らし、何やら悲しそうにしている。
「王と話し合われたのね」
彼女はどうやらライオネルが出立することを見抜いているらしい。はしばみ色の目は潤み、眉尻が下がっていた。
「ああ、明日にも発とうと思っている。お前はこのまま残るといい。この悪魔城ならルジャウダ王が守ってくれるだろう」
万が一、ライオネルがアザゼルに負け、命を落とすことになったとしてもルジャウダがいるここなら安全だ。ライオネルは心の中で呟いた。
ライオネルが頷けば、「だったらアマデウスに会ってあげてちょうだい。彼、すごく悲しんでいるの。兄さんに嫌われたと思っているわ」コルベルは胸に手を当て、そう言った。
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