175 / 209

最終章・王の涙。(5)

 いったい彼は自分の質問のどこに驚く必要があるのだろうかと思った。なにせライオネルはアマデウスを愛している。その彼が愛した家族のことを知りたいと思うのは当然のことだ。  そしてアマデウスは静かに語り出す。視線はライオネルから薔薇園に移り、遠くを見つめた。 「一番上の兄、ギデオンは波打つ腰まであるブロンドに力強い闇色の目に鋼の身体をもっていて、民からも慕われていた強くて勇敢な戦士だった。二番目の兄、グスタフはダークブロンドでね、翡翠の目をしていた。剣よりも天文学が好きで、よくギデオン兄さんと喧嘩するんだ。でもグスタフ兄さんはギデオン兄さんに力では敵わないんだ。だからよく理詰めで言い負かせていた」  二人の喧嘩を思い出したのか、アマデウスはくすくすと笑う。その笑い声は荒んだライオネルの心を鎮めてくれる。彼の話に耳を傾け、ライオネルは目を閉ざし、その光景を想像した。 「グスタフ兄さんはいつも空を見上げていたよ。いつか、星々が輝く夜空を見てみたい。人間界に行きたいとも言っていた。三番目のダグラスは身体が弱くて病弱だったけれど、心優しい人だった。ギデオンとグスタフが喧嘩をした時、仲裁に入るのは決まってダグラス兄さんだったんだ。本を読むのが好きで、ぼくはいつもダグラス兄さんにお伽噺を聞かせて貰っていた」  赤い目(ルビー・アイ)が揺れている。 「この薔薇園でね、身体の弱いダグラス兄さんが乗っている車椅子をギデオン兄さんが押すんだ。そしてギデオン兄さんをダグラス兄さんが追いかけて、ぼくはそんな兄さん達を追うんだ」

ともだちにシェアしよう!